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JR北海道の輸送の安全・安心を、どうつくるか――6つの緊急提言
2013年12月25日 日本共産党北海道委員会
事故・トラブルが続いたJR北海道は、レール検査データ改ざんという、交通輸送機関としてあってはならない事態まで引き起こしました。これまで重大事故の対処も十分にされてこなかったばかりか、さらに悪質な隠ぺいまでおこなっていたことは、鉄道事業者としての資格が根本から問われます。道民の信頼を失い、経済や流通に打撃を与えたJR北海道の責任は重く、公共交通機関として再生するために、道民の納得のいく徹底した事故の検証と再発防止策を確立しなければなりません。
同時に、輸送の安全を守る義務は鉄道事業者だけでなく、政府・国にも大きな責任があることを指摘しなければなりません。JR北海道は独立行政法人(「鉄道建設・運輸施設整備支援機構」)が全株を保有し、国が実質的に保有する会社です。たび重なる監査などをおこないながら問題点を見抜けなかった国の責任も問われなければなりません。
また、JR北海道での人減らしや効率化は、国鉄の分割・民営化路線に端を発しています。25年経った今こそ、その検証と総括をおこなう時です。
広大な北海道にとって、鉄道は経済・流通や生活を支える欠くことのできない交通機関です。事態を重く見た日本共産党は、9月に国会調査団が本社へ調査・要請に入り、現職労働者やOB、識者の方々などからも話を伺ってきました。また、安全確保に向けたシンポジウムも開催してきました。これらをふまえて日本共産党北海道委員会は、JR北海道の輸送の安全・安心を確保し、公共交通として再生の道をはかるために「6つの緊急提言」をおこなうものです。
1.なぜ事故やトラブルが相次いだのか
トンネル内で火災を発生させた石勝線脱線事故(2011年)を皮切りに、重大トラブルや事故が相次いで発生しました。自然災害などでないJR北海道自身の輸送障害(30分以上の遅延または運休)件数は、10年前は年間100件ほどでしたが2012年は180件を超え、ほぼ倍増しています。
その特徴は、①エンジン破損・出火など車両部品に関わる問題、②レール異常の放置など保線に関わる問題、③運転士の覚せい剤使用やATS(自動列車停止装置)破壊など社員の不祥事に関わる問題、④レール幅のデータ改ざんに表れた組織的問題――などです。その問題の背景を探ると、いくつかの問題に突き当たります。
(1) 利益優先と安全軽視の経営理念
国鉄時代には「安全は輸送業務の最大の使命である」との安全綱領が掲げられ、職場でも定期的に安全綱領が確認されてきました。しかしJR北海道が毎年発行する安全報告書の「安全基本方針」では「経営理念」が先立って書かれ、2013年版になってから「お客様の安全を最優先に」との表現がようやく追加される有り様でした。また、航空機の増加や高速道路延長などの交通環境の変化にともない、旅客獲得に向けた速度競争を優先し、エンジンなどへの負荷が増大し、事故やトラブルを頻発させました。
JR北海道本社には、社長を委員長とし、役員・部長・支社長を委員とする安全推進委員会がありますが、事故原因や対策が議論されず「名ばかり安全推進委員会」とも報じられました。株式上場を目標に最大限の利益を追求してきた姿勢が「安全は二の次」とする経営姿勢となり、後述するように人員や投資の削減を生み出すという事態を引き起こしました。根本的問題として、この経営理念が問われなければなりません。
(2) 想定されていた鉄道事業の赤字と、商業施設や不動産事業に傾斜した経営
JR北海道は発足当初から鉄道事業の赤字は想定され、実際に民営化翌年は533億円の営業損益を出しました。その損益を、国が出資した経営安定基金の運用益で補填する予定でした。しかし、低金利などにより穴埋めもできなくなり、ローカル線廃止や人件費削減を加速させ、2011年からは特別債権利息も使って補ってきました。JR北海道は「赤字体質」を構造的に抱えるとともに、鉄道事業より商業施設や不動産事業などに経営を傾斜させて利益確保を進め、これが安全軽視に拍車をかけることになりました。
(3) 人員や安全関連設備投資の削減
JR北海道の発足当初、約13,000人いた社員は、現在はほぼ半減しています。国鉄末期からJR発足時に至る新規採用抑制策により、いま40歳代の中堅社員は全社員の7.7%(2013年度)と圧倒的に少なく、とりわけ現業部門の削減によって技術継承に深刻な問題が生じています。車両整備や保線ではグループ会社への発注が増え、肝心の社員の技術力向上などが問われる事態になっています。
安全関連設備投資も、2007年度は100億円ほどを投資したのに対し、2010年度は58億円となるなど、全体として削減され、石勝線事故が起きた2011年から、やっと増額に転じた程度です。
(4) 社員が安全のために一致結束する状況を壊した、偏った労務政策
このような資金面の問題だけでなく、偏った労務政策を取っていたことが相次ぐ重大事故・トラブルの要因となりました。
JR北海道には4つの労働組合が存在しますが、本社は特定労働組合のみの団体交渉に応じるばかりでした。労使一体化の進行と合わせ、特定組合に所属しないことを理由に社員同士のチームワークも乱れることも起きています。偏った労務政策は、安全のため一致結束するという本来あるべき社内風土を壊すことにつながりました。安全確保を訴えていた労働組合の声にも応えないできました。安全の最前線にいる現場職員を選別した誤りを、JR北海道は認めるべきです。
(5) 安全を事業者まかせにしてきた国の責任
JR発足後、国は安全基準を鉄道事業者まかせにし、安全報告を事後にチェックするのみの規制緩和政策を進めてきました。自然条件が厳しく、車両や線路等の痛み・老朽化が進みやすい北海道においては、厳しい安全基準が必要でありながら、対策はJR北海道まかせとなってきました。定期的におこなってきた監査も、技術職員は全国で32人、補助的職員を含めても約180人程度で、現場の実態を調査する監査体制とはとうてい言えません。レールの異常を放置したり、木製枕木の交換時期に関する基準がなかったり、JR北海道が自主的に作成した安全基準の不備・不徹底が次々に発覚したことでも、それは明らかです。
これらの問題が重なったことで数々の事故・トラブルが発生してきただけに、全面的な検証と対策が必要です。そのためにはJR北海道だけでなく、政府が本来果たすべき責任を果たすことが必要です。
2.JR北海道の輸送の安全・安心の確保と、公共交通の再生へ――6つの緊急提言
(1) JR北海道は「安全こそ最大の使命」を、すべてに優先して大前提に
107人の犠牲を出したJR西日本の福知山線脱線事故(2005年)の際には、航空・鉄道事故調査委員会(当時)が2年間かけて原因究明と事故防止対策を進めてきました。
現在のJR北海道を見たとき、いつ人命被害が発生してもおかしくない深刻な状況をうみ、鉄道事業者としての資格が問われる現状にあります。安全に関する外部有識者・専門家の知恵が総動員された第三者委員会を設置するなど、経営の透明性を確保した検証・監視体制をつくる必要があります。レール検査データ改ざんという事態を受けて、あらゆる記録の保存を義務付けるとともに、安全に関する情報の公開も決定的に必要です。
第三者委員会の結論を待たず、技能・技術を持つ社員を登用するなど、文字どおり安全に責任を負える体制にすることです。
(2) 緊急に安全を確保する、投資と人員増員・配置を
労働現場では「スピードアップが課せられ、エンジンに負荷がかかっている」(整備)、「管理室の統合と人減らしが進み、検査が手一杯で補修に回れない」(保線)、「60歳過ぎのベテランが再雇用されている間に、技術を継承しないと大変なことになる」(保線)などの声があふれています。緊急を要する路線資材や車両等の更新、ATS(保安装置)設置などへの安全投資とふさわしい人員配置、技術・品質管理体制の再構築、人材育成・技術教育の充実、緊急的な中途採用の措置を取ることなど、投資・資材・人員を集中的に投入するべきです。
今ある路線の安全確保を最優先するために、道南地方までの新幹線整備にかかわっているグループ会社などの協力も得るなど思い切った対策を取ってこそ、道民の信頼回復にもつながります。
(3) 偏った労務政策をやめ、社員が結束する企業風土の確立を
公共交通を担う事業者は「安全こそ最大の使命」との立場に立つべきであり、社員が一致結束して安全に責任を負う経営を進める義務があります。ようやく本社は4つの労働組合すべてとの話し合いを始めることとしていますが、これを一過性のものとせず、適切な労使関係を構築していくことです。
(4) 国が「輸送の安全・安心の確保」「公共交通の再生」へ責任を果たす
①規制緩和を見直す
政府は国鉄の分割・民営化に始まり、2002年には「鉄道に関する技術上の基準を定める省令」を制定するなかで、安全については各事業者の自主的判断をもとに政府が事後チェックしていくという規制緩和を進めてきました。車両の検査周期も、例えば全般検査では「6年または50万㌔」走行としていたものが、キロ数が外され「6年」(1991年)「8年」(2002年)と緩和されてきました。たとえ各装置の性能や耐久性が向上したとしても、スピードアップにともない各装置にかかる負荷は大きくなり、人員削減が技術伝承を困難にすると予測できたはずです。このような規制緩和は、安全確保に結びつかないことは明らかであり、国が真に輸送の安全・安心を確保する方向へと転換すべきです。
これまでの規制緩和を抜本的に見直すとともに、北海道の広大さと積雪・寒冷という特殊な条件をふまえて、緊急に安全基準を作成することが必要です。JR北海道が自主的に作成した安全基準の不備・不徹底が次々に発覚しているなか、新たな基準づくりにまで国が責任を負うことが求められます。安全軽視の経営体質を持つ事業者まかせにすれば、コストを優先させ自主基準もないがしろになるのは当然だからです。
鉄道関係の専属監査職員が32人ではすべてに手が回らず、土木・電気設備・車両整備・運転感知の4分野から対象を絞って監査をおこなうこともあります。現場の実態調査と労働者の実際の声を聞き、組織間の連携など社内環境に踏み込んだ監査をおこなうだけの実効性ある監査へ向けた人員を増やすことです。
(5) 資金など必要な支援に国が責任を持つ
JR北海道が公共交通として役割を果たすためには、国による相応の支援が必要で、そのために経営安定基金が設けられました。北海道にとって鉄道は経済・流通の動脈であるとともに、通勤・通学・通院など生活に欠かせない交通手段です。
当面、これまでどおり基金の運用益などで補うとともに、鉄道建設・運輸施設整備支援機構の資金活用や、国土交通省内の道路予算も含めて予算配分を見直すなどして必要な資金を確保することです。整備新幹線の札幌延伸の見直しも含めて、安全を最優先に国の責任で資金確保をはかるべきです。
(6) 分割・民営化の検証・見直しを
日本共産党は、国鉄の分割・民営化について、国民に対する公共交通サービスを保障する国の責任を放棄し、国民共有の財産を財界・大企業に切り売りし、赤字ローカル線廃止など国民の足を奪い、大量の人減らしによる輸送の安全の破壊につながるものと反対しました。また、1047人にも及ぶ採用差別事件は当事者と家族の人生を大きく狂わせ、その後の労働法制の規制緩和にもつながっていきました。
安全を最優先に確保し、道民の移動する権利を保障する――本来あるべき鉄道事業の姿が失われたのは、国鉄の分割・民営化が発端でした。鉄道事業を輸送の安全と国民の足を守る公共交通として再生するためには、人口減少の現実化など社会情勢の急激な変化も踏まえ、国鉄分割・民営化と安全の規制緩和をあらためて検証し、国が直接、経営を管理運営することも含めて抜本的な見直しが必要です。
道民の願いはJRに乗っても安全であるということであり、JRはその社会的責任を果たさなければなりません。また、公共交通の安全を確保することは国の責任であり、安全に向けたあらゆる対策を打つよう、日本共産党は強く求めます。
生活の交通手段としても、流通の動脈という点でも、鉄道の再建が急がれます。どのような交通体系を北海道につくるのか、道民的議論を深めることを合わせて呼びかけます。
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【今日の句】 脱線は 酒の場だけに とどめてね
【今日の句】 脱線は 酒の場だけに とどめてね
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